相続した不動産の売却までにかかる税金を解説!節税に活用できる特例・控除
2025.09.01

相続した不動産を売却する際には、相続税や譲渡所得税、住民税など複数の税金が関係してきます。場合によっては数百万円単位の納税が発生することもあるため、事前の知識がとても重要です。
この記事では、相続不動産の売却までにかかる税金の種類、少しでも税負担を軽減するために活用できる特例・控除制度をわかりやすく解説します。
目次
【相続時】相続した不動産にかかる税金の種類

相続した不動産には、相続時に支払う必要のある税金があります。代表的なのは相続税と登録免許税で、どちらも相続手続きやその後の売却に影響する大切な税金です。
トラブルや余計な負担を避けるためにも、それぞれの税金がいつ、どのようにかかるのかを事前に理解して準備を進めておきましょう。
相続税|遺産全体の額に応じて発生する税金
相続税は、不動産を含めたすべての遺産に対して課される税金です。発生するかどうかは、遺産総額が基礎控除額を超えるかで判断されます。
基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算され、この金額以下であれば税金はかかりません。申告期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヵ月以内です。
登録免許税|不動産の名義変更にかかる税金
登録免許税は、相続した不動産の名義変更(相続登記)にかかる税金です。税額は「不動産の固定資産評価額×税率」で計算され、相続による登記では税率が0.4%と定められています。
例えば評価額が2,000万円の土地であれば、8万円の登録免許税が発生します。土地と建物が両方ある場合はそれぞれに税額がかかる点にも注意が必要。
なお、登記申請は令和6年4月1日から義務化されていて、手続きを怠ると不動産の正式な所有者として認められず、将来的な売却や相続手続きが困難になるリスクがあるため、忘れずに行うことが重要です。
【売却時】相続した不動産にかかる税金の種類

相続した不動産を売却する際には、印紙税・譲渡所得税・住民税の3つの税金がかかります。これらは売却価格や利益の有無、所有期間によって税額が変わるため、事前に仕組みを理解しておくことが大切。
出費を防ぎ、手取り額をしっかり確保するためにも売却前の確認が必要です。
印紙税|売買契約書に課される税金
不動産の売買契約書を作成する際に発生するのが印紙税です。税額は契約金額によって変わり、例えば4,000万円の不動産を売買する場合、印紙税として1万円が課されます。契約書を2通作成した場合は、それぞれに印紙が必要となるため税額も倍になります。
ただし実務では、正本1部に印紙を貼り、控えはコピーで対応することで節税するケースも。納税方法は郵便局などで収入印紙を購入し、契約書に貼付して消印することで完了します。
譲渡所得税|売却益にかかる所得税
相続した不動産を売却して利益が出た場合、その利益(譲渡所得)に対して課されるのが譲渡所得税です。譲渡所得は「売却金額-取得費-譲渡費用-特別控除」で計算されます。
取得費には亡くなった親が不動産を購入した金額や相続時の登記費用などが含まれ、建物の場合は減価償却費の計算も必要になります。
取得金額が不明な場合は売却額の5%を取得費にすることが可能です。税率は所有期間で異なり、5年超なら「長期譲渡所得」で15%、5年以下なら「短期譲渡所得」で30%が適用されます。
不動産を5年以内に売却すると税率が高くなりますが、タイミングや特例の活用で負担を抑えて有利に売却できる可能性があります。5年以内の売却を考えている方は以下の記事も確認してみてください。
住民税|売却益に対して課される地方税
譲渡所得が発生すると、その利益には住民税も課税されます。住民税の税率は不動産の所有期間によって変わり、5年以下で売却した場合は「短期譲渡所得」として9%、5年を超えると「長期譲渡所得」として5%が適用されます。
所有期間の起算点は相続人が取得した日から計算される点は譲渡所得税と同じです。また、譲渡所得税と住民税は「分離課税」となり、給与所得など他の所得とは別に課税される点も特徴。
不動産を売却する時にかかる費用を詳しく知りたい場合は以下の記事も参考にしてください。
相続した不動産の売却時に活用できる特例・控除制度

相続した不動産を売却する際は、税負担を軽減できる特例や控除制度の活用が重要です。適用できる制度を使うことで譲渡所得税を大きく減らせる可能性があります。
代表的なものに取得費加算の特例や3,000万円特別控除などがあり、要件を満たすかどうかで納税額は変わります。
取得費加算の特例で譲渡所得を減らせる
相続した不動産を売却する際、相続税を支払っている人は「取得費加算の特例」を使って節税できる可能性があります。この制度では、不動産にかかった相続税の一部を取得費に加算できるため、譲渡所得を減らせて、結果として譲渡所得税の軽減が期待できます。
適用には、相続税の申告期限(相続開始から10ヵ月以内)の翌日から3年以内に売却することが必要です。相続税を支払った人で譲渡益が大きい場合ほど効果が大きくなります。
居住していた家なら3,000万円の控除が使える
相続後、自分で住んでいた実家を売却する場合、マイホームの3,000万円特別控除が適用できる可能性があります。これは譲渡益から最大3,000万円を差し引ける制度で、譲渡所得税や住民税の負担を大幅に減らせます。
ただし、売却する家に実際に住んでいた実績が必要で、空き家になっている場合は適用外になるため注意が必要です。
相続した空き家でも条件次第で3,000万円控除が可能
被相続人が一人で住んでいた実家を相続し、空き家のまま売却する場合、相続空き家の3,000万円特別控除が使えるケースがあります。
制度を活用するには1981年以前に建築された住宅であること、相続後に住んだり貸したりしていないこと、買主が親族ではないことなど複数の条件をすべて満たす必要があります。適用されれば譲渡所得が最大3,000万円まで非課税となるため、空き家相続の節税策として有効です。
相続した不動産を売却する際に気をつけたいポイント

相続した不動産を売却する際には、スムーズに進めるために知っておくべきポイントがあります。
名義変更のための相続登記や、売却益が出た場合の確定申告の必要性など、基本的な流れを理解しておくと後のトラブルを防止できます。事前に準備を整えておくことが大切です。
相続後にすぐに売却する場合でも相続登記が必要
相続した不動産をすぐに売却する場合でも、必ず相続登記を済ませておく必要があります。相続登記をしなければ、名義が故人のままになっているため、第三者に売却することができません。
法律上、売主は登記簿上の所有者でなければならないため、買主への名義変更も不可能です。売却をスムーズに進めるためにも、まずは自分名義への登記を済ませておきましょう。
不動産を売却すると確定申告が必要
相続した不動産を売却して利益が出た場合は、翌年に確定申告をして譲渡所得税を納める必要があります。売却益は所得として扱われるため、他の所得と合わせて申告が求められます。
なお、売却によって損失が出た場合は申告不要となるケースもありますが、特例を使うには申告が必要なこともあるため注意が必要です。申告期限は売却した年の翌年3月15日までです。
相続不動産を売却する際は事前に税金のシミュレーションをしよう

相続した不動産を売却する際は、相続税や譲渡所得税、住民税など複数の税金がかかるため、事前にシミュレーションを行うことが大切です。
税額は不動産の評価額や売却価格、取得費によって変わる他、特例や控除制度を使うことで負担を大幅に軽減できる場合もあります。
後から慌てないように、売却前に税理士など専門家に相談し、どのくらい税金がかかるのかを把握しておくことをおすすめします。
監修
佐々木総合法律事務所/弁護士
佐々木 秀一
弁護士
1973年法政大学法学部法律学科卒業後、1977年に司法試験合格。1980年に最高裁判所司法研修所を終了後、弁護士登録をする。不動産取引法等の契約法や、交通事故等の損害賠償法を中心に活動。「契約書式実務全書」を始めとする、著書も多数出版。現在は「ステップ バイ ステップ」のポリシーのもと、依頼案件を誠実に対応し、依頼者の利益を守っている。
