生前贈与のやり方完全ガイド|手続き方法・メリット・注意点をわかりやすく解説
2025.08.21

生前贈与は自分で手続きでき、相続対策や家族への資産移転に役立ちます。誰に、何を、どんな目的で渡すのかを決め、贈与税の課税方法を選び、受贈者の合意を得て贈与契約書を作成することが基本です。
本記事では生前贈与のやり方をステップごとに解説し、手続き方法・メリット・注意点までわかりやすく紹介します。
目次
生前贈与のやり方|自分でできる6ステップ

まずは、生前贈与の手続きの6ステップをわかりやすく紹介します。生前贈与は、相続とは異なり、生きている間に家族へ財産を無償で渡す制度。税金や将来設計に関わるため、ライフイベントをきっかけに計画的に行うことが大切です。
1.贈与する相手、財産、目的を考える
生前贈与を始める前に「誰に、どの財産を、どんな目的で贈与するのか」を具体的に整理しましょう。相続税対策なのか、生活資金援助なのかで進め方が変わります。
また、贈与先によって非課税枠が変わる点も重要です。相手の意向も確認しながら計画を立てることで、後々のトラブルを防ぎ、安心して贈与を進められます。
2.贈与方法を選ぶ
生前贈与には「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」の2つの方法があります。暦年贈与は年間110万円まで非課税でコツコツ贈与するのに向いており、相続時精算課税制度は最大2,500万円まで非課税で一度に大きな財産を渡したい場合に有効です。
なお、2024年1月1日以降に贈与する財産については、相続時精算課税制度を選択した場合でも年間110万円の基礎控除が適用されます。
制度名 | 非課税枠 | 対象者の条件 | 特徴 | 注意点 | |
---|---|---|---|---|---|
暦年贈与 | 年間110万円まで/人 | 制限なし | 毎年の贈与に適用 | 申告不要(非課税内) | 一度に大きな贈与は贈与税の対象 |
相続時精算課税制度 | 最大2,500万円/人 | 贈与者:60歳以上の親や祖父母 受贈者:18歳以上の子や孫 |
贈与時は非課税で、相続時に課税される | 贈与時は非課税で、相続時に課税される | 一度選ぶと暦年贈与には戻れない |
それぞれの制度の条件や特徴を理解し、自身の状況や目的に合う制度を選ぶことが大切です。
3.受贈者の同意をもらい、贈与契約書を作成する
贈与は、贈与者と受贈者の双方の合意があって初めて成立します。特に暦年贈与では毎年契約書を作成することで、贈与の事実を証明し、税務署から否認されるリスクを防ぐことが可能です。通帳や印鑑は受贈者が管理できる状態にし、保管しておきましょう。
4.贈与財産をうつす
贈与契約が整ったら、実際に財産を移転しましょう。不動産の場合は、法務局で所有権移転登記を行い、名義変更に必要な書類を双方で準備します。
現金の場合は、銀行振込で贈与の記録を残し、通帳や印鑑は受贈者が管理することが大切です。確実に贈与を成立させるには、証拠の確保と手続きの正確さが求められます。
5.贈与税・不動産取得税の申告・納付を行う
年間110万円を超える贈与を受けた場合は贈与税の申告が必要です。贈与を受けた人(受贈者)が贈与を受けた翌年2月1日〜3月15日までに、管轄の税務署へ申告する必要があります。
相続時精算課税制度を選択した場合は、贈与税が非課税であっても申告は必要となるため、注意しましょう。
また、不動産を生前贈与した場合は、贈与税が非課税でも不動産取得税は課税されます。所有権移転登記後3〜6カ月ほどで納税通知書が届き、金融機関等で納付します。
生前贈与で得られる3つのメリット

生前贈与には、節税、財産の計画的移転、意志に沿った分配など多くのメリットがあります。ここでは、具体的な3つの利点と、それを活かせるケースをご紹介します。
1.相続税対策に活用できる(暦年贈与の場合)
生前贈与は相続税対策として活用できます。暦年贈与を使えば毎年110万円まで非課税で贈与が可能です。相続財産を計画的に減らし、相続税の課税対象額を抑えましょう。
例えば、相続財産が基礎控除を少し超える場合などに有効で、相続税を0円にできるケースもあります。制度を理解し計画的に進めることで、将来の相続税負担を軽減できます。
2.贈与時期を選び値上がりリスクを回避できる(相続時精算課税制度の場合)
贈与は時期を自由に決められるため、値上がりが見込まれる財産を評価額が安いうちに移転することで、相続税負担を抑えられます。
例えば、成長が期待される株式や値上がり見込みの不動産を保有している場合、早めに贈与することで課税評価を抑えることが可能です。相続時精算課税制度を使えば、贈与時の評価額で固定されます。将来価値が上昇しても課税評価額は増えないため、節税効果が期待できます。
3.希望どおりに財産を託せる
生前贈与を活用すれば、特定の人に特定の財産を渡せるため、自分の意思を反映できます。
例えば、内縁の妻や事実婚のパートナーなど、法定相続人にならない人へ財産を渡したい場合に、生前贈与を活用すれば財産を渡すことが可能です。
一方相続では遺言があっても、不服がある場合は争いに発展することがあるため、注意が必要。生前であれば家族と話し合いながら進められるため、トラブルの回避にもつながります。
生前贈与を行う時の2つの注意点

生前贈与は相続対策に役立ちますが、注意点を知らずに進めると税務署に認められなかったり、思わぬ課税対象になったりすることもあります。ここでは実務で特に重要な2つの注意点を解説します。
1.税務署から贈与と認められない場合もある
生前贈与は、税務署に認められなければ無効とされる場合があります。「手続きが面倒だから現金で渡してしまおう、こちらで勝手に進めてしまおう」と手間を省いてしまうと追徴課税の可能性も。
生前贈与は契約ですので、相手方である受贈者が贈与を認識していることや通帳の管理、贈与契約書の作成、贈与税の申告など、形式を整えることが重要です。以下のような場面では注意が必要なため確認しておきましょう。
【注意が必要なケース】
ケース | 内容 | なぜ認められにくいか | 対策 |
---|---|---|---|
現金の手渡し | 贈与を現金で直接渡す | 記録が残らず、贈与の事実を証明できない | 銀行振込で記録を残し、通帳コピーなどを保管 |
名義預金 | 受贈者名義の口座に入金しても、通帳や印鑑を贈与者が管理 | 実質的に贈与者の支配下にあるとみなされる | 通帳・印鑑を受贈者に渡し、自由に使える状態にする |
定期贈与 | 「1000万円贈与する」などと事前に取り決めて毎年同額を繰り返す | 一括贈与を分割したと判断され、課税対象になることがある | 毎年契約書を交わし、金額や時期を変えるなど「都度の意思表示」を明確に |
2.7年以内の贈与は相続税の対象になる
2024年1月以降、相続開始前7年以内の贈与は相続税の課税対象に加算されることになりました。従来は3年以内でしたが、今後は4〜7年前の贈与についても一部が持ち戻しの対象となります。相続税対策としての生前贈与は、より計画的に行う必要があるので注意しましょう。
【注意が必要なケース】
ケース例 | 内容 |
---|---|
相続税の課税ラインに近い状態 | 生前贈与で財産を減らしても、基礎控除を超えると課税対象となる可能性あり |
【財産別】生前贈与に必要な費用、税金はどのくらい?

生前贈与では、贈与税のほかに不動産取得税や登録免許税などがかかることがあります。
【現金贈与の場合】
110万円以下なら非課税で、費用は振込手数料程度
【不動産贈与の場合】
税金
税目 | 内容・計算方法 |
---|---|
贈与税 | 評価額が110万円を超える場合、超過分に贈与税が課税(税率は累進制) |
登録免許税 | 固定資産税評価額×2.0%(名義変更時に必要) |
不動産取得税 | 土地及び住宅用の建物の不動産取得税=課税標準額×税率3% 住宅用以外の建物の不動産取得税=課税標準額×税率4% |
費用
費用項目 | 金額の目安 | 内容 |
---|---|---|
司法書士報酬 | 約4万~5万円 | 所有権移転登記(名義変更)の手続き |
税理士報酬 | 約5万円(贈与額1,000万円以下の場合) | 贈与税申告書の作成・提出支援 |
生前贈与のやり方について家族と考え始めよう

生前贈与は相続税対策や家族間トラブルの防止に役立ちますが、正しい手続きや制度理解が欠かせません。誰に何をどのような目的で贈与するのかを整理し、家族で話し合いながら計画的に進めることが大切です。
これを機に、生前贈与のやり方について家族と一緒に考え始めてみましょう。
監修
佐々木総合法律事務所/弁護士
佐々木 秀一
弁護士
1973年法政大学法学部法律学科卒業後、1977年に司法試験合格。1980年に最高裁判所司法研修所を終了後、弁護士登録をする。不動産取引法等の契約法や、交通事故等の損害賠償法を中心に活動。「契約書式実務全書」を始めとする、著書も多数出版。現在は「ステップ バイ ステップ」のポリシーのもと、依頼案件を誠実に対応し、依頼者の利益を守っている。
