生前贈与で相続税対策!メリット・デメリット・活用のポイントを解説
2025.07.17

相続税対策として注目される生前贈与。うまく活用すれば、相続税の負担を軽減し、スムーズな資産承継が可能になります。しかし、贈与には守るべき税制上のルールがあり、適切に行わなければ思わぬデメリットを招くことも。本記事では、生前贈与のメリットとデメリットを洗い出し、効果的な活用ポイントなどを解説します。
目次
【相続税対策】生前贈与の概要

生前贈与は、相続前に財産を渡すことで相続税を軽減する方法です。しかし、適切に行わないと負担が増えることも。本章では、生前贈与の基本や種類を解説します。
生前贈与とは
生前贈与とは、存命している期間に配偶者や子、孫などに財産を無償で渡すことです。生きている間に他者に財産を移転させられるため、相続財産を減らす効果があります。死後の相続とは財産が移転するタイミングや、税金の違いがあるので要注意。以下に違いをまとめたので、チェックしてみてください。
<生前贈与と死後の相続の違い>
生前贈与と死後相続の違い | 生前贈与 | 相続 |
---|---|---|
財産が移転するタイミング | 被相続人の存命中 | 被相続人の死後 |
納税の対象者 | 受贈者 | 相続人または受遺者 |
課税の対象者 | 受贈者 | 相続人または受遺者 |
税金の申告・納税期限 | 贈与の翌年2月1日~3月15日 | 被相続人の死後10カ月以内 |
課される税金 | 贈与税 | 相続税 |
内容合意の必要性 | あり | なし |
誰でも財産を引き継げるか | 可能 | 不可 ※遺言を遺せば可能 |
好きなように財産を譲れるか | 可能 | 不可 ※遺言を遺せば可能 |
財産の受け取りの拒否 | 不可 ※ケースによっては可能 | 可能 |
生前贈与2つの種類
生前贈与は大まかに、相続時精算課税制度と暦年贈与の2つがあります。
項目 | 相続時精算課税制度 | 暦年贈与 |
---|---|---|
対象者 | 60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子 孫への贈与 |
誰へでも利用可能 |
非課税枠 | 2,500万円まで | 1年間(1月1日~12月31日)最大110万円 |
課税の仕組み | 贈与時は非課税だが、相続時に財産に 加算され相続税を算出 |
1年間の贈与額が110万円超の場合、 超過分に贈与税が課税 |
贈与税の税率 | 2,500万円を超えた部分に20%の贈与税が 課税 |
110万円超の部分に累進課税の 贈与税が課税 |
申告手続き | 税務署への申告が必要 | 110万円を超える場合は 税務署への申告が必要 |
向いているケース | 相続税の基礎控除額内に相続財産が収まる 場合、遺産に収益不動産が含まれる場合など |
贈与者が比較的若い場合 |
2024年から、相続時精算課税に年間110万円の基礎控除が追加され、贈与税の負担が軽減されました。
なお、相続時精算課税を選ぶと、その後同じ贈与者からの贈与について、暦年課税へ変更することができないので注意が必要です。自身の状況に合った制度を選び、計画的に活用しましょう。
【相続税対策】生前贈与のメリット

生前贈与を活用すると、相続税を減らせたり、特定の人へ財産が残せたり、贈与時期を見極めれば財産の値上がりを防げたりします。この章では生前贈与の各メリットを詳しく説明します。
1.相続税を減らせる
相続税は、相続時の遺産総額に対して課税される税金です。つまり、生前贈与で相続時の財産を減らせれば、相続税の節税が期待できます。
相続税の基礎控除「3,000万円+600万円×法定相続人の数」に加え、毎年110万円の暦年贈与を活用すると、より効果的です。
<例:被相続人の資産:8,000万円、法定相続人ではない孫2人へ10年間贈与した場合>
-
- ・相続税の基礎控除額:3,000万円+(600万円×2)=4,200万円
- ・贈与総額:100万円×10年×2人=2,000万円
- ・相続時の財産:8,000万円-2,000万円=6,000万円
- ・基礎控除後の課税対象額:6,000万円-4,200万円=1,800万円
課税対象額が減少し、税負担を軽減可能できます。
2.特定の人へ財産が残せる
相続では、相続人間の遺産分割協議が必要ですが、生前贈与なら自身の意思で財産を配分することが可能です。「この人に渡したい」という意思があるなら、生前贈与で渡しておくのがおすすめ。
特に不動産は物理的に分けられないため、生きている間に特定の人に贈与しておけば、相続時のトラブル回避になります。しかし、後に法定相続人より遺留分侵害請求されるケースもあるため、注意が必要。事前に家族へ相談し、納得してもらうのが円滑にすすめるポイントです。
3.贈与時期を選べて、資産の値上がりが防げる
生前贈与は、贈与する時期を自由に選べるため、将来の評価額上昇による相続税の増加を防ぐことが可能です。
例えば、現在3,000万円の評価額の不動産を、今のうちに贈与すれば、相続時に評価額が5,000万円に上昇していたとしても、課税対象となるのは贈与時の3,000万円のままとなります。
相続時精算課税制度を活用すれば、相続時に不動産の評価額が上がっていても、贈与時の価額で計算されるため、節税効果が得やすくなります。特に、都市部の不動産や開発予定地など、今後の価値上昇が見込まれる資産を持つ場合、適切なタイミングで贈与することで、相続税負担を大きく軽減することが可能です。
不動産の売却の際は、住栄都市サービスにご相談ください。
【相続税対策】生前贈与のデメリット

生前贈与にはメリットがある一方、金額が大きくなると贈与税が発生することや、契約成立に双方の同意が必要など、デメリットもいくつかあります。また、亡くなる7年以内の贈与は無効となります。デメリットも理解した上で、生前贈与の必要性を知りましょう。
1.贈与税がかかる場合がある
先にも述べた通り、一定の額を超えると、贈与税がかかるため注意が必要です。
贈与税の税率は、額が増えるほど、税率も高くなる課税方式になっています。以下の表を参考にしてください。
課税価格(基礎控除後) | 200万円以下 | 200万円以下 | 300万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 3,000万円超 | h |
税 率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% | ||
控除額 | ‐ | 10万円 | 25万円 | 65万円 | 125万円 | 175万円 | 250万円 | 400万円 |
参照:国税局
2.贈与契約の成立には双方の合意が必要になる
生前贈与は、贈与契約ですので、当事者双方の了承があって、初めて成立します。一方的に財産を渡しても、相手が受け取る意思を示さなければ贈与とは認められません。
トラブルを防ぐため、あらかじめ両者で贈与契約書を作成します。不動産を贈与する際は、不動産の情報を正確に把握する必要があるため、事前に法務局で「登記事項証明書」を取得しておきましょう。
3.亡くなる7年以内の贈与は無効になる
贈与者の死亡前7年以内に行われた生前贈与は、相続税の課税対象です。2023年までは「死亡前3年間」でしたが、2024年から「7年間」に延長されました。
健康不安などを感じて、せっかく贈与をはじめても、7年以内に亡くなってしまうと、相続税軽減の効果が得られない可能性があります。生前贈与は早い段階で、計画的に行うことが重要です。
なお、生前贈与で既に支払った贈与税は、二重課税となるため相続税から控除されます。
【相続税対策】生前贈与の効果を最大限に活かす2つのポイント

生前贈与を効果的に活用するには、計画的に進めることが重要です。特に、贈与の対象者を増やすことや、長期間にわたって贈与を続けることで、相続税負担の大幅な軽減が可能。本章では、その具体的な方法を解説します。
1.多くの人へ贈与する
贈与税の基礎控除110万円は、受贈者ごとに適用されるため、多くの人に分けて贈与すれば非課税枠を最大限活用できます。
例えば、1,000万円を一括で贈与すると、税率30%が適用されますが、10人に100万円ずつ贈与すれば全額非課税となり、税負担が軽減可能。計画的に贈与を分けることで、効率よく節税しましょう。
2.贈与の年数を増やす
暦年贈与は、毎年110万円非課税で贈与することが可能です。
例えば、10年間暦年贈与を続ければ、合計1,100万円贈与することができます。しかし、デメリットでも述べた通り、亡くなる7年以内の贈与は無効となってしまうため、贈与は早めに始めることが重要です。贈与の効果を最大限活かすために、余裕をもって準備を進めましょう。
【相続税対策】生前贈与の3つの注意点

生前贈与は相続税対策として有効ですが、注意すべきポイントもあります。名義預金と見なされるリスクや、遺留分の侵害によるトラブル、自分の老後資金の確保などを考慮しなければなりません。
1.名義預金になっていないか
名義預金は、贈与とみなされないので注意しましょう。
名義預金とは、資金の出どころや口座管理をしている人と、口座の名義人が異なる預金のこと。例えば、親が子に内緒で、子名義の口座を作成し、その口座に資金を貯めることは名義預金にあたり、贈与は無効となります。
また、現金で直接手渡すのも避けるべき方法のひとつ。税務署は銀行の入出金履歴などを確認する権限があるため、ばれる可能性が大きいです。申告逃れで、重加算税の対象となるので十分注意しましょう。
贈与とみなされるためには、贈与契約書を作成し、誰が、誰に、いつ、何を、どのように贈与するかを明示していくことが重要です。
2.遺留分を侵害していないか
生前贈与も遺留分に含まれるため、配分には注意が必要です。
遺留分とは、一定の法定相続人が、受け取ることを保障されている最低限の相続財産割合のこと。法定相続人が遺留分侵害請求をすると、後日受贈者に金銭負担が発生する恐れがあります。トラブルを避けるためにも、贈与時は遺留分に配慮しましょう。
3.自分の老後の資金は確保できているか
手元の資金を贈与しすぎて、生活ができなくなっては本末転倒です。生前贈与の節税効果は大きく、メリットも多いですが、存命期間が長くなったり、医療費が多くかかってしまったりした場合は、自身の老後資金などが不足してしまう可能性もあります。贈与の際は適正な金額を検討しましょう。
【相続税対策】生前贈与を非課税にする制度も有効な方法

贈与税の負担を抑えるために、以下の非課税制度を活用できます。
制度名 | 非課税枠 | 適用期限 |
---|---|---|
住宅取得等資金の贈与税非課税措置 | 最大1,000万円 | 2026年12月31日 |
結婚・子育て資金の一括贈与非課税制度 | 結婚資金:300万円 子育て資金:1,000万円 |
2026年度末 |
これらの制度を利用すれば、生前贈与の税負担が軽減可能です。ただし、適用には一定の要件や手続きがあるため、詳しくは国税庁の情報や税理士に確認しましょう。
生前贈与で賢く相続税の対策を!

生前贈与は、相続財産を減らし節税できる有効な手段です。適切な制度を選べば、特定の人に確実に財産を渡せ、資産価値の上昇による税負担も軽減できます。贈与税や遺留分にも注意しつつ、計画的に進めることが重要です。今から生前贈与を始めましょう。
不動産売却の際は、住栄都市サービスにご相談ください。
監修
佐々木総合法律事務所/弁護士
佐々木 秀一
弁護士
1973年法政大学法学部法律学科卒業後、1977年に司法試験合格。1980年に最高裁判所司法研修所を終了後、弁護士登録をする。不動産取引法等の契約法や、交通事故等の損害賠償法を中心に活動。「契約書式実務全書」を始めとする、著書も多数出版。現在は「ステップ バイ ステップ」のポリシーのもと、依頼案件を誠実に対応し、依頼者の利益を守っている。
