遺産分割協議書とは?作成の流れと書き方のポイントを解説
2025.06.20

相続財産の分け方を正式に決める際に必要なのが遺産分割協議書です。遺言書がない場合、相続人全員で合意した分割内容を証明するために作成が求められます。
しかし、具体的な手順や記載すべき内容に、戸惑う人も少なくありません。本記事では、遺産分割協議書の基本から、作成の流れ、記載時の注意点まで詳しく解説します。
目次
遺産分割協議書の基礎知識

遺産分割協議書は、遺言書がない場合に相続人全員で話し合い、合意内容を記録する書類です。作成義務も書式の指定もありません。まずは遺産分割協議書の基礎知識を見ていきましょう。
遺産分割協議書とは
遺産分割協議書は、遺言書がない場合に相続人全員で話し合い、合意した遺産分割の内容を記録する書類です。遺産について、相続人全員で話し合うことを遺産分割協議と呼びます。法的な作成義務はありませんが、相続手続きの円滑化や、後のトラブル防止のために重要です。
作成には相続人全員の署名と実印の押印が必要で、印鑑証明書の添付も求められます。作成後は、各自が1通ずつ保管しましょう。
作成期限はありませんが、作成が遅れてしまうと、特例による税金の軽減などが受けられなくなってしまいます。また、不動産や預貯金の名義変更が滞る可能性もあります。
遺産分割協議書の入手方法・書き方
遺産分割協議書は決まったひな形がないため、自分で作成する必要があります。書式は自由ですが、以下の項目を必ず記載しましょう。
【遺産分割協議書に必要な記載事項】
- ・被相続人の氏名と死亡日
- ・相続人全員の氏名・住所・実印の押印
- ・相続財産の詳細(不動産は登記情報、預金は銀行名・支店名・口座番号まで記載)
- ・遺産分割の合意内容
記載内容に関するポイントは後述します。なお、遺産分割協議の対象が不動産のみの場合は、法務局でひな形のダウンロードが可能です。細かい内容で作成に不安を感じるなら、弁護士などの専門家に依頼しましょう。
遺産分割協議書はいつ必要?

相続手続きでは、状況に応じて遺産分割協議書の作成が求められます。この章では、遺産分割協議書が必要なケースと手続きを説明します。
遺産分割協議書が必要なケース
遺産分割協議書は以下のようなケースで必要になります。
①遺言書がない場合
②遺言書に記載のない財産が発覚した場合
③遺言書はあるが、遺言書記載の分割内容と異なる分割をする場合
一方、遺言書の記載内容や法定相続分に従って分割する場合には、作成は必要ありません。相続の状況に応じて必要かどうかが異なるため、適切な手続きを確認することが重要です。
遺産分割協議書が必要な手続き
遺産分割協議書は、以下のような手続きの際に求められることがあります。
手続き内容 | 提出先 |
---|---|
預金口座の解約、名義変更などの手続き | 金融機関 |
不動産の相続登記 | 法務局 |
株式等の名義変更、売却等の手続き | 証券会社 |
自動車の名義変更 | 運輸支局 |
相続税の申告 | 税務署 |
遺産分割協議書の作成の流れと書き方のポイント

円滑に作成を進めるために、遺産分割協議書を作成する流れを押さえましょう。この章では、流れを工程ごとに説明し、併せて作成する際のポイントを解説します。
1.法定相続人の確定
遺産分割協議を行うには、法定相続人を確定する必要があります。
まずは、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取得し、相続人を確認しましょう。認知された子どもや、前配偶者との子どもも相続人の対象となるため注意が必要です。相続人の確定が難しい場合は、専門家に依頼しましょう。
【ポイント】
遺産分割協議書に相続人を記載する際は「続柄 氏名」を記載しましょう。
例:「妻 山田花子」「長男 山田太郎」
2.被相続人財産を調査
被相続人の財産を正確に把握するために、財産調査を行います。
財産には預金・不動産などのプラス財産だけではなく、借入金・保証債務などのマイナス財産も含まれます。各財産の調査方法を以下にまとめたので、参考にしてください。
財産の種類 | 調査方法 |
---|---|
預貯金 | 1.遺品(通帳など)から取引金融機関を特定 2.金融機関で死亡時の残高を確認 |
借金 | 1.遺品(請求書など)から借入先を特定 2.信用情報機関(JICC・CIC・全国銀行個人信用情報センター)に情報開示請求 3.借入先より借入残高証明書を取得 |
不動産 | 1.遺品(固定資産税通知書など)から特定 2.登記事項証明書を取得、権利情報を確認 3.不動産の評価額を算定(路線価・固定資産税評価額など) |
有価証券 | 1.遺品(株券など)から取引証券会社を特定 2.証券会社で死亡時の残高証明書を取得 |
【ポイント】
調査時に判明できず、後日判明した財産の取扱いも、遺産分割協議書に明記しておきましょう。
例:「後から見つかった財産は、妻 山田花子が相続する」
3.遺産の分割割合を決定
相続人と財産が確定した後、遺産分割協議において分割の割合を決定します。
分割割合は、法定相続分に関係なく、全員の合意で自由に決定が可能。しかし、不動産の持ち分の決定や、事業承継の際にトラブルが生じる可能性があるため、注意が必要です。また、遠方の相続人とは電話で意思確認をするなど、スムーズに進めるための工夫をしましょう。
協議がまとまらない場合は、家庭裁判所の調停や審判が必要になるため、早めの対応が求められます。
【ポイント】
遺産分割協議書には、相続財産の分配内容を明確に示しましょう。
例:「妻 山田花子は以下の遺産を取得する ・・・銀行 ・・・支店 普通預金 口座名義金・・・」
4.遺産分割協議書の作成
最後に、話し合った内容を遺産分割協議書に記載します。記載時には、不動産の所在地が登記情報と一致しているかの確認が必要です。また、預金残高を記載する際も、金額変動の影響を受けないよう注意しましょう。
作成に不安がある場合は、弁護士に依頼するのも一つの方法です。法律に沿った正確な書類を作成できるため、後のトラブルを防ぐことにつながります。
【ポイント】
- 1.パソコンでも手書きでも作成可能
- 2.複数ページにわたる場合は、ページの間に相続人全員の実印で契印をしましょう。
遺産分割協議書作成時の3つの注意点

遺産分割協議書の作成時は誤記や署名漏れ、相続人判断能力の有無の3点に注意が必要です。不備があると手続きが進まず、やり直しになることも。注意点を理解し、事前にトラブル回避をしましょう。
1.記載事項に誤りがないか
不動産の地番や、預貯金の口座番号の誤記などに注意が必要です。特に地番は読み取りが難しく、誤記のしやすい箇所です。登記簿謄本の記載通りに書かないと、相続登記の手続きの際に法務局が受理してくれない可能性もあります。
修正の際は、以下を参考にしてみてください。
正内容 | 訂正方法 | 必要な押印 | 注意点 |
---|---|---|---|
相続人に関する訂正 | 誤記部分に二重線を引き、正しい記載をする | 該当相続人の実印 | 二重線の上または近くに押印、スペースがない場合は空いている箇所に押印 |
被相続人・相続財産に関する訂正 | 誤記部分に二重線を引き、正しい記載をする | 相続人全員の実印 | 遺産分割内容が変更されるため、全員の了承が必要。印影が重ならないように押印 |
2.一部の相続人の署名捺印が抜けていないか
遺産分割協議には、相続人全員の署名と実印が必要で、音信不通の相続人がいると財産の名義変更ができません。この場合、不在者財産管理人の選任や失踪宣告の手続きが求められるため、注意が必要です。
さらに、後から相続人が判明した場合は、改めて全員で協議し、新たな遺産分割協議書を作成しなければなりません。トラブルを防ぐために、事前に十分な相続人調査を行いましょう。
3.相続人の意思判断能力に不安はないか
認知症などで判断能力がない相続人がいる場合、そのまま遺産分割協議はできません。家庭裁判所で成年後見人を選任し、後見人が相続人の代わりに署名・押印を行います。
ただし、成年後見人が相続人の一人であり、後見監督人がいない場合は利益相反が生じるため、特別代理人の選任が必要です。手続きに不安がある場合は、専門家に依頼しましょう。
ポイントを押さえ遺産分割協議書を作成しよう

遺産分割協議書は、相続手続きをスムーズに進めるために重要な書類です。作成には相続人の確定、財産の調査、分割割合の決定が必要で、誤記や署名漏れ、判断能力の有無にも注意が必要です。
不備があると手続きが滞るだけでなく、やり直しや法的手続きが必要になることも。トラブルを防ぐために、正確な記載を心がけ、相続人間で相談しながら慎重に進めましょう。
監修
佐々木総合法律事務所/弁護士
佐々木 秀一
弁護士
1973年法政大学法学部法律学科卒業後、1977年に司法試験合格。1980年に最高裁判所司法研修所を終了後、弁護士登録をする。不動産取引法等の契約法や、交通事故等の損害賠償法を中心に活動。「契約書式実務全書」を始めとする、著書も多数出版。現在は「ステップ バイ ステップ」のポリシーのもと、依頼案件を誠実に対応し、依頼者の利益を守っている。
