株の相続にはどんな手続きが必要?流れや相続税評価額、注意点も解説
2025.08.05

株を相続するには、上場株式か非上場株式か調査し、証券会社等に問い合わせて名義を変更する手続きが必要です。
本記事では、株の相続手続きの流れを解説します。できるだけ損をしないように進めたい方は、注意点や現金化すべきかどうかについても紹介しているので、あわせてチェックしてみてくださいね。
目次
株の相続手続きの流れ

株の相続手続きは、5つのステップで進めていきます。ここでは、手続きの流れを段階別に解説します。
1.相続人・相続財産を確認する
まずは、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を集めて、相続人を確定させます。あわせて相続財産も調査しておくことが大切です。
株式がある場合の調査方法は、上場株式か非上場株式かで異なります。上場株式なら、取引残高報告書や評価証明書がないか確認しましょう。非上場株式の場合は、郵便物や株券の原本などが手がかりになることもあります。
証券口座の開設先が不明な場合は、「証券保管振替機構(ほふり)」に問い合わせてみましょう。証券保管振替機構は、証券会社から預けられた株券などを管理・記録している機関です。開示請求を行うことで取引のある証券会社を教えてもらえます。
2.証券会社に連絡をする
取引していた証券会社や証券口座の開設先がわかったら、証券会社に名義人が亡くなったことを連絡します。すると、相続手続きに必要な書類の発行とあわせて名義変更依頼書が送られてきます。
あわせて、保有していた株式の残高証明書も発行してもらうと安心です。相続税の申告などにも使うので忘れずに手配しておきましょう。
3.遺産分割協議を行う
遺言書がない場合は、株式を含む財産の分け方について相続人全員で話し合う「遺産分割協議」が必要です。協議がまとまるまで遺産は全員の共有財産とされるため、誰がどの遺産をどれだけ相続するのかを決めなければなりません。
特に非上場株式が含まれる場合、評価の仕方が複雑なため専門家に相談するのも一つ。話し合いがまとまったら、全員の署名・押印をした遺産分割協議書を作成しましょう。
4.必要書類をそろえ、株の名義変更をする
遺産分割協議が完了したら、証券会社や株式の発行会社に対し名義変更の手続きを行います。株式の名義変更に必要な書類は、主に以下のとおり。
- ・名義変更依頼書(証券会社から送付される)
- ・被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
- ・相続人全員の戸籍謄本
- ・相続人全員の印鑑証明書
- ・遺産分割協議書や遺言書(あれば)
- ・株主票や株券(発行されている場合)
必要書類は証券会社や株式の種類によって異なるため、事前に確認しておくとよいでしょう。また相続人が証券口座を持っていない場合は、新規に口座の開設が必要です。
5.相続税の申告・納付をする
名義変更手続きが終わったら、必要に応じて相続税の申告・納付をします。相続した財産の総額が基礎控除を超えた場合に必要な手続きで、申告・納付期限は相続開始の翌日から10ヶ月以内です。
申告書は被相続人の住所地の税務署に提出し、納税は現金一括払いが基本。期限までに手続きしなければ、延滞税や加算税などのペナルティが科される可能性があるため注意しましょう。
株の分割方法3つ

相続人が複数人いる場合、株式は分割して相続する必要があります。現物分割・換価分割・代償分割の3つの方法があるため、それぞれ詳しくみてみましょう。
1.株をそのまま分ける「現物分割」
現物分割とは、株式を現金化せずにそのままの形で分けることです。例えば、兄弟3人で3,000株ある場合、1人1,000株ずつ分けます。
すぐに保有でき、自分のタイミングで現金化しやすい点や、株の数で平等に分けやすい点がメリット。ただし銘柄によっては値動きが異なるため、後々評価が変わった場合、不公平感が生じることもあります。
2.売ってから分ける「換価分割」
換価分割とは、株式を一旦現金にしてからその金額を相続人で分け合うこと。投資に関心がない人でも相続しやすく、相続人によって不公平感が生まれることも少ない方法です。
ただし株を売るタイミングによって価格が変わる可能性があります。
3.誰かが受け取ってお金で調整する「代償分割」
代償分割とは、相続人の一人が株式を全て受け取り、他の相続人に対し「代償金」としてお金を渡す方法です。株を売らずに残したいときに便利で、将来の値上がりも期待できます。
ただし受け取った人は代償金を用意する必要があり、金額の決め方で揉めることもあるため注意しましょう。
株の相続税評価額

相続税を計算するには、株式の評価額を知っておく必要があります。株式の相続税評価額は、原則、被相続人が亡くなった日の終値を見ます。
ただし株価は日によって変動するため、相続人が損をしないように以下の4つから最も価格が低いものを選択することが可能です。
- 1.亡くなった日の終値
- 2.亡くなった月の「毎日の終値の平均額」
- 3.亡くなる前の月の「毎日の終値の平均額」
- 4.亡くなる前々月の「毎日の終値の平均額」
これらの値は株式会社が発行する残高証明書に記載されています。なお非上場株式の場合は、価格は市場で決まらず専門的な知識が必要なため、税理士に相談すると安心です。
株の相続における3つの注意点

株を相続する際、状況によっては準確定申告が必要で、相続後に売却すると譲渡所得税が発生します。また、あとで株式が見つかった場合は修正申告が必要なことも。ここでは、株の相続における3つの注意点を解説します。
1.被相続人に利益があった場合は準確定申告をする
亡くなった方に、配当金や不動産収入などの所得があった場合、準確定申告が必要になることがあります。準確定申告とは、亡くなった年の1月1日から亡くなった日までに得た所得について、相続人が代わりに行う確定申告のこと。
申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から4ヶ月以内とされています。必要書類の準備などもあるため、早めに確認・対応しておきましょう。
なお、配当金の基準日が生前だったとしても、実際に受け取る前に亡くなっていた場合は相続財産として扱われ、準確定申告の対象にはなりません。
2.相続後に売却すると譲渡所得税がかかる
相続した株を売却して利益が出た場合、その利益に対して譲渡所得税がかかります。税率は、所得税と住民税を合わせて一律20.315%です。
利益(譲渡所得)は、次のように計算されます。
「売却金額-売却時の手数料-取得費」
取得費とは、もともと被相続人が株を購入したときの金額のこと。取得費がわからない場合は、証券会社や信託銀行に問い合わせてみましょう。なお、相続税の申告期限から3年以内に株を売却した場合は、「取得費加算の特例」を使って節税できることもあります。
3.あとで株式が見つかったら相続税の修正申告が必要な場合がある
相続税の申告後に株式が見つかった場合、時期によっては修正申告が必要です。相続税には「申告期限から5年」の時効があり、5年以内に株式が見つかった場合は修正申告をしなければなりません。
一方で、5年を超過して見つかった場合の申し出は不要です。5年以内に株式が見つかったにも関わらず放置すると、過少申告加算税や延滞税がかかる場合もあるため注意しましょう。
相続した株は「現金化」か「そのまま」どっちがいい?

相続した株式を現金化するかしないか、どちらがよいかは相続人の知識や状況によります。株を現金化する場合と、そのまま持っておく場合のメリット・デメリットは以下のとおりです。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
現金化した場合 | すぐに使える・分配しやすい | タイミングによっては損をする |
そのまま持つ場合 | 将来的に価値が上がる可能性がある | 放置して価値が下がる場合がある |
株の知識がある相続人がいる場合はそのまま所有する選択肢もありますが、株に詳しい人がいない場合は現金化して分ける方が安心です。
株の相続に期限はある?

株の相続手続き自体には期限は設けられていません。ただし相続税の申告期限は、前述のとおり相続開始から10ヶ月以内。相続税の申告・納付が必要な場合、期限までに対応しないと延滞税などのペナルティが科される可能性があるため、余裕を持って早めに手続きしておくとよいでしょう。
株の相続の基本を理解し、落ち着いて手続きを進めよう

株を相続するには、証券会社に連絡して名義を変更する必要があります。相続税の申告や分割方法によって、手続きの難易度やトラブルの可能性も変わってくるため、基本的な流れと注意点を押さえておくことが大切です。
不安な点がある場合は、税理士や証券会社などの専門家に早めに相談するとよいでしょう。
監修
佐々木総合法律事務所/弁護士
佐々木 秀一
弁護士
1973年法政大学法学部法律学科卒業後、1977年に司法試験合格。1980年に最高裁判所司法研修所を終了後、弁護士登録をする。不動産取引法等の契約法や、交通事故等の損害賠償法を中心に活動。「契約書式実務全書」を始めとする、著書も多数出版。現在は「ステップ バイ ステップ」のポリシーのもと、依頼案件を誠実に対応し、依頼者の利益を守っている。
