相続不動産

JOURNAL

相続ジャーナル

お客様のお役に立つ情報を随時配信しています

遺言書で全遺産を一人に相続させられる?相続人不在時の対処法も解説

2025.06.06

遺言書によって、すべての遺産を一人に相続させることは可能です。ただし、リスクも伴うため慎重に判断しましょう。

本記事では、遺言書で一人だけに相続させるケースとあわせて、相続人が不在な場合の対処法やリスクを解説します。遺言書を書く際のポイントも紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。

遺言書で一人に全遺産を相続させることは可能?

遺言書に明記することで、全遺産を一人に相続させることは可能です。遺言書は、各相続人に対する相続割合を自由に決められます。法定相続人が何人いたとしても、そのうちの一人だけに相続させることは認められます。

ただし、一人だけに相続させることにはリスクも生じるため、慎重な判断が必要です。

遺産を一人だけに相続させる6つのケース

遺産を一人だけに相続させる場合、いくつかのケースが考えられます。どのような場合に一人だけに相続させるのか、ここでは6つのケースを解説しましょう。

1.相続人が一人しかいない

法定相続人が一人しかいない場合は、その人がすべての遺産を相続します。相続人が一人だけであれば、遺産を分割する必要がないため、遺言書がなくても自動的にその人が相続することになるのです。

例えば、以下のようなケースが該当します。

  • ・配偶者、子ども、両親がおらず、兄弟が一人だけいる場合
  • ・両親や兄弟姉妹がおらず、配偶者だけいる場合

2.子どもがおらず配偶者だけに相続させたい

子どもがいない夫婦で、配偶者だけに相続させたい場合は、その旨を遺言書に明記します。遺言書がなければ、配偶者だけでなく両親や祖父母、兄弟姉妹も相続人となり、遺産分割協議をしなければなりません。

配偶者に限定して遺産を相続させたいなら、夫婦が各々に遺言書を作成しておくことが大切です。

3.他の相続人が相続放棄した

相続人のうち、他の相続人が全員相続放棄をした場合、残った一人が全遺産を相続します。相続放棄とは、プラスの財産や負債を相続する権利を放棄する手続きのこと。

相続放棄をした人は、はじめから相続人ではなかったとみなされます。そのため、相続放棄により最終的に相続人が一人になれば、遺言書がなくてもその人に相続されます。

4.不仲により他の相続人に相続させたくない

不仲な相続人がいる場合、遺産を渡したくないケースもあるでしょう。しかし、相続人であれば不仲や信用の有無に関わらず、遺産を相続する権利を持っています。遺言書がなければその人にも分配され、希望どおりの相続にはなりません。

遺産を相続させたくない相続人がいる場合は、遺言書を作成することで信用できる一人に相続させることが可能です。

5.生前、他の相続人に多額の経済的援助をした

生前、特定の相続人に対し多額の経済的援助をした場合、援助をしていない一人に相続させたいと考えるケースもあります。すでに十分な支援を受けた相続人と、ほとんど援助を受けていない相続人間で、不公平感が生まれる可能性を避けるためです。

例えば、以下のようなケースが該当します。

  • ・長女には結婚資金を渡したが、次女には援助をしなかった場合
  • ・長男には自宅建築費を援助したが、次男は賃貸生活で援助をしなかった場合

6.相続手続きの負担を楽にしたい

遺産を複数の相続人に分けるよりも、一人に相続させたほうが手続きの負担を軽減できる場合があります。特に物理的に分けにくい不動産は、共有名義にすると売却手続きが複雑になり、トラブルにつながることも。

分けにくい遺産の相続は、一人に相続させたほうが手続きが簡単でトラブルも避けられるため、遺言書で相続方針を示しておくとよいでしょう。

相続人がいない場合はどうしたらいい?

相続人がいない場合は、遺言書によって親しい知人や団体に遺贈することが可能です。もし遺言書がなかった場合、遺産は最終的には国庫に帰属することになります。

【対処法】遺言書により遺贈する

配偶者や子ども、両親や兄弟姉妹などがおらず、法定相続人がいない場合にも、遺贈する方法があります。遺贈とは、遺言によって第三者や法人・団体などに遺産を引き継がせることです。遺言書に明記しておくことで、親しい友人や恩がある人物、お世話になった介護施設などに遺産を引き渡せます。

なお、遺贈は相続人がいる場合でも可能です。ただし、相続人間でトラブルになる可能性があるため、慎重に進めましょう。

遺言書がなければ国庫に帰属される

遺言書がない場合、裁判所が選任した相続財産管理人が故人の資産を調べ、相続人や相続債権者を捜索します。それでも相続人としての権利を主張する者がなく、相続債権者等からの申し出や特別縁故者からの請求もない場合、故人の遺産は国庫に帰属されます。つまり、遺産の所有権が国に移るということ。

遺贈の意思を示さなければ、遺産は国の所有物となってしまうため、相続人がいない場合は早めに遺言書を作成しておくとよいでしょう。

全遺産を一人に相続させるリスク3つ

全遺産を一人に相続させると、他の相続人が遺言書の無効を主張したり、遺留分侵害請求をされたりする可能性があります。また、相続税負担が高額になるリスクも。一つずつ解説します。

1.他の相続人が遺言書の無効を主張する可能性がある

全遺産を一人に相続させる場合、他の相続人から遺言書の無効を主張されるリスクがあります。遺言書の内容に不満を持たれ、「要件を満たしていない」と難癖をつけられたり、偽造や改ざんを疑われたりするケースも。

特に、自筆証書遺言書は書き方に厳格なルールがあります。遺言書のトラブルを防ぐには、公証人が作成する公正証書遺言書が望ましいでしょう。

2.他の相続人から遺留分侵害額請求をされる場合がある

全遺産を一人に相続させた場合、他の相続人から遺留分侵害請求をされるリスクがあります。遺留分とは、遺言によっても侵害されない相続人の権利で、一定の相続人に認められています。また、その割合も法定されています。配偶者や子ども、両親や祖父母などには遺留分が保障されています。

遺留分は侵害できないため、請求された場合は遺言書どおりにならない可能性があります。

3.相続税負担が高額になる可能性がある

全遺産を一人に相続させると、その人が高額な相続税を負担するリスクがあります。相続税は遺産の総額によって決まり、相続した人が税額を負担する仕組みです。

税負担を考慮するなら、一人に相続を集中させるのではなく、複数人で分配する方法を検討するのも一つです。

遺産を一人に相続させる遺言書|書き方のポイント

遺産を一人に相続させる場合、遺言書には付言事項を書き足しておきましょう。また、相続放棄や遺留分の不請求を打診しておくのもポイントです。

付言事項を書き足しておく

遺言書に、付言事項として一人に相続させる理由を記載しましょう。なぜその人だけなのかを明確にすることで、他の相続人の不満を和らげられます。

例えば、配偶者にすべての財産を渡したい場合、「生前、子どもたちには十分な援助をしたため、残った財産は妻に渡したい」という思いを記します。

付言事項に法的効力はありませんが、遺言者の思いを伝えることで他の相続人に納得してもらいやすくなるでしょう。

相続放棄や遺留分の不請求を打診する

他の相続人に対し、相続を放棄することや遺留分を請求しないことを打診する文面を残しておくのも手です。遺留分請求や相続権は法的に保障されていますが、相続人が自ら権利を行使しない選択を取ることも可能です。

遺言書に「放棄してほしい」「請求しないでほしい」と記し、意思を尊重してもらうよう伝えることで、遺言者の希望に添った相続が実現しやすくなります。

困ったときは弁護士に相談を

全遺産を一人に相続させる遺言書の作成が不安な場合は、相続に詳しい弁護士に相談するとよいでしょう。弁護士に相談することで、遺留分や相続人間のトラブルを回避し、法的要件を満たした有効な遺言書を作成できます。

例えば、以下のような場合、遺言書が無効となる可能性があります。

  • ・作成日や署名・捺印がない
  • ・訂正方法が誤っている
  • ・内容が不明確で、強制された可能性がある
  • ・夫婦共同で作成してある

円滑な相続手続きを行うために、必要に応じて弁護士の力を借りましょう。

遺言書で全遺産を一人に相続するポイントを押さえておこう

遺言書によって、すべての遺産を一人に相続することは可能です。ただし、他の相続人とのトラブルが発生しやすく、相続税が高額になりやすいデメリットを知っておきましょう。遺言書作成のポイントを押さえ、必要に応じて弁護士に相談することをおすすめします。

不動産相続に関しては、住栄都市サービスまでお気軽にご相談ください。

監修

佐々木総合法律事務所/弁護士

佐々木 秀一

弁護士

1973年法政大学法学部法律学科卒業後、1977年に司法試験合格。1980年に最高裁判所司法研修所を終了後、弁護士登録をする。不動産取引法等の契約法や、交通事故等の損害賠償法を中心に活動。「契約書式実務全書」を始めとする、著書も多数出版。現在は「ステップ バイ ステップ」のポリシーのもと、依頼案件を誠実に対応し、依頼者の利益を守っている。

TOP